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【オンライン演劇 / 台湾 演劇 / 台湾 舞台 / 紙風車文教基金会 / 緑光劇団 / 呉念真 / 人間条件 シリーズ / 謝銘祐 】
(日本語翻訳=hanii、GA)
目次
「台湾に今一番必要なのは共感。」呉念真(舞台監督)
台湾の文化芸術の発展に貢献している紙風車文教基金会(Paperwindmill Cultural Foundation Taiwan)は、1993年に大人向けの芝居作品を作るべく緑光劇団(Greenray Theatre Company) を設立した。
台湾一かわいいおじさんと呼ばれる呉念真監督は、2001年に緑光劇団に参加して以来、「人間条件シリーズ」をはじめ数々の大衆演劇作品を手掛け、数万人以上の観客動員数を記録している。昨今コロナ禍で人々の心が落ち着かない状況を見て、呉監督は「台湾人にとって今一番必要なのは共感だ」と感じ、演劇界も苦境に立たされている中ではあるが、台湾の人々のために何か貢献したいと考えた。そこで呉監督は自身が20年の歳月をかけて作ってきた舞台劇「人間条件」シリーズ1~6、計48時間の映像をオンライン限定で6日間にわたって配信した。時空を越えて演者と観客が再会し、数百万の台湾人が共に感動を分かち合った。
「人間条件シリーズ1~人の心を満たす幸福感~」
物語の舞台は、かつての台湾のとある田舎町。「樁脚」と呼ばれた選挙ブローカーが巷に溢れ、人々が「六合彩」というロトくじに熱中していた時代だ。十七歳の高校生阿美(メイ)、テレビ好きで家事もしない母、六合彩の胴元でもあり町内会長でもある父、この家族を中心に嵐のような物語が展開する。ある日、メイは両親の代わりにお墓参りに行くことになった。マクドナルドのハンバーガーを片手に出かけて行ったメイだが、墓参りから帰ってきた時、不思議な変化が起こった。それまで大人しい性格で他人の言いなりだったメイが突然、父に文句を言い始めたのだ。その場にいた家族は、メイが祖母の霊に取り憑かれたのだと気づく。
演劇の魅力は、映画のように特殊効果技術やメイクで年齢の変化を見せるのではなく、俳優が確かな演技力で役を表現する点である。さっきまで足を揃えて上品に座っていたメイが、祖母の霊に取り憑かれた瞬間急に豪快な姿勢に変化するなど、観客を圧倒するような細かな演技だ。メイと祖母を一人二役で演じたのはミュージシャンの黄韻玲(Kay Huang)で、台北ポップミュージックセンター(TPMC)の理事長も務める女性だ。元々音楽監督の募集に応募したつもりが、間違って演者として選ばれたらしい。彼女は声色や抑揚の変化で17歳と70歳という二つの役の個性を完璧に演じ分けた。観客にとってそれはとても楽しく、正に舞台演劇の醍醐味ともいえる。
物語の結末で祖母は願いをかなえる。その願いとは、「心を強く持とう」と支えてくれた友人たちに感謝の気持ちを伝えることだった。呉監督が伝えたかった言葉「心強く、平穏に、幸せに」、それが祖母のセリフを通して観客の心に伝わるストーリーだった。
・予告映像:http://youtu.be/6bzQs3Jpa4s
「人間条件2~彼女の人生の男性たち(Those Men in Her Life)」
「あの年、淡水河の波に埋葬されたのは名前のない死体だけではなかった。同時にユキの青春と自由な人生も埋葬された。」
主人公のユキは裕福な家庭に生まれ育った女性だ。ユキは長年この家に遣える使用人の武雄に秘かに心を寄せていたが、親達に逆らうことができず家柄の釣り合う相手と結婚した。しかし夫の暴力と浮気により穏やかな日常は壊されてしまう。親世代は、自分の目が黒いうちはと、代々続いた旧家の道義を守ろうとする。一方、若い世代にとっては古い家の存在意義は不動産から得る利益だけだ。年老いたユキと孫との会話から、若い頃の記憶や長年胸に秘めていた恋が、舞台の上で明かされていく。こうして孫たちとぽつりぽつりと対話していくユキの姿は、呉監督が見てきたこの世代の毅然とした台湾女性の印象を具現化している。また若い頃のユキと中年以降のユキを二人の役者が演じ分けることで、成長とともに変化していく主人公の心を温かく表現している。中年以降のユキを演じた林美秀は登場した瞬間に、「私は中年太りしちゃった」というユーモアのあるセリフで観客を沸かせた。(訳者注:林美秀さんはNHKドラマ「路」にも出演していた有名女優。ぽっちゃりとした体形)
・予告映像:http://youtu.be/oagIITkobQY
「人間條件3~台北午前零時~」
台湾南部から仕事を求め北部へやってきて工場で働く三人の若者。現状への不安、見えない将来、胸に秘めた恋など、それぞれの物語が交差する。
呉監督が生まれ育った1950年代を舞台に、異郷の地での真の友情と再会を描いている。
保守的な当時の時代は、恋にも先着順といった義理があった。主人公たちはそれぞれのやり方で互いの人生を守っていた。結末で三人は軽い口調で過去の想いを述べながら、若い頃のわだかまりを溶かしていく。
・予告映像:http://youtu.be/ZdE66ClY8RA
「人間条件シリーズ4~変わらぬ月の光~」
かつての台湾では「家の財産は全て、兄弟で一番勉強ができる子に捧げる」という考えがあった。物語に登場するのは、性格も進路も全く違う二人姉妹。妹は、知識を一種の武器ととらえており、他者への貢献心がなく、攻撃的な言葉や行動で姉を馬鹿にする。姉は、妹の人生の成功のために全てを犠牲にした誠実で善良な性格な持ち主だ。この物語は非常に残酷だが、「飲水思源」という言葉の意味や、「自尊心・プライドは他人の心を踏みにじって築くものではなく、自らの力でこつこつと築くべきものだ」という道理を、柔らかな形式で私たちに教えてくれる。
・予告映像:http://youtu.be/rX-TydmI_To
「人間条件シリーズ5~男はさすらう生き物~」
この劇名(中国語「男性本是漂泊心情」)は、台湾の昔の歌謡曲の曲名だ。描かれているのは、とある家出した中年男性。彼は放浪の心をもっている。呉監督自身の中年男性としての心の声も見え隠れする。物語の冒頭で主人公は本音を吐出し、もう引っ込みがつかなくなる。犠牲を払って手にした自由だが、中年男性たちの抱える少年の心と寂しさが描かれていく。林美秀が一人三役で、夫の心の支えとなりながら家庭を守る三人の女性を演じている。
・予告映像:http://youtu.be/LQWvcdV0xMA
「人間条件シリーズ6~未来の主人公~」
呉監督は、若い世代を観察し、次世代へのエールとしてこの芝居を作り上げた。彼はこの劇を通じて、将来国の柱となる若い世代の立場への共感を伝えている。高齢化社会や介護問題、出産育児問題、人生の選択などなど生活は大変。どこに居場所を見つければいいのか、人はそれぞれ、人生の様々なステージに様々な解釈を行っていく。人生の価値観とは何か。一つの迷いは多くの迷いを生むが、人生は短く待ったなしだ。セリフの一つ一つが心に刺さり、観客の心に感動を呼ぶ。「結婚は一日、生活は一生」なんていうリアルな言葉も立場の変化や責任の重さを物語っている。
・ハイライト映像:https://www.youtube.com/watch?v=9H8E_5ucGbA
「観劇は時に、嘆いたり弱音を吐いたりするのと同じ作用がある。劇中のシーンが自分の境遇に似ているのを見ると、一種の慰めになる。」呉念真監督
私にとって観劇とは、自分の一部を映し出すことだ。それは過去や現在や未来かもしれないし、あるいは自分の周りのシルエットなのかもしれない。台湾語の話し言葉は、実はそのまま人生の言葉の縮図であり非常にリアルだ。芝居の全体的な視点が、照明によってコントラストをつけて照らし出され、監督が観客に伝えたい観点を際立たせている。呉監督は、この「人間条件」シリーズを脚本から演出まで、独力で一から作り上げた。笑いあり涙ありの本シリーズ作は、演劇界の最高の境地を極めた。今、ウイルスとの闘いという神からの試練の中において、このような過去の名作が、力強いセリフで私達に力を与えてくれる。上の世代の記憶が無数のディテールに凝縮され、呉監督の人生の軌跡と経験の厚みを物語っているようで、見る人の胸に迫ってくる。また生活に対する様々な世代の人々の理解や考察を反映している。これらは正に観劇で得られる最大の収穫、価値である。
応援ソングMV『愛相信咱一定会閣見面』/謝銘祐
その他の情報
緑光劇団公式YouTubeチャンネル https://youtu.be/PqkRNY26FaI
緑光劇団公式サイト http://www.greenray.org.tw/main/index.php
緑光劇団公式Facebookページ https://www.facebook.com/greenraytheatre.fans
(画像はインターネットより引用)
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