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【台湾人の物語】元祖 台湾 カステラ – 台南・邱恵美さんの「古早味」(懐かしの味)!

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台湾 カステラ

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【 邱恵美 / 阿美 古早味 / 台湾 カステラ / 台南 パイナップルケーキ / 台南 グルメ / 台湾 スイーツ

(日本語翻訳=GA)

台南 ~ 台湾の歴史

高雄から北へ約50kmのところに位置する台南は、台湾で最も歴史ある都市で、古い文化の都としても有名です。

オランダ統治、清朝統治、日本統治という歴史を経たため、台南には今でも多くの歴史的建造物や史跡が残っており、いたるところでレトロな街並みや文化を感じることができます。伝統の技を守る創業100年の老舗や、静かに自分たちの味や姿勢を守り続けている庶民的な食堂といった古いお店がたくさんあります。台湾西部の主要都市の中でも、特に台南には独特の食文化があり豊かな文化が根付いています。古さと新しさの間で、独自の歩みで個性的な街を作り上げてきた台南は、国内外の観光客に愛されている魅力的な地域です。

5月下旬、私は台南の有名な市場「東菜市」の近く、民権路一段にある「 邱恵美 鳳梨酥(パイナップルケーキ)」というお店を訪れました。「古早味(懐かしの味)」のカステラを食べに…。

交差点に面した大きな看板は日光で少し色褪せていますが、とても目立っています。

邱恵美 / 阿美 古早味 カステラ / 邱恵美 鳳梨酥(パイナップルケーキ)

民権路 ~ 最も初期に整備された道路

民権路は、「東門円環」とよばれるロータリーに入る五本の道路のうちの一本で、長さは約5.3kmです。

民権路の一段エリアから四段エリアへ歩いていくと、そのまま安平地区まで続いています。民権路は台南で最も早く開発された歴史的な風格のある通りです。

現在の一段エリアと二段エリアの間には、仏具店、餅菓子店、工芸店など、古い技を受け継ぐお店が多く立ち並んでいます。なかでも有名な「万川号餅舗」(中華菓子店)、「振発茶行」(茶葉店)、「左藤紙芸薪伝」(紙工芸)はいずれも100年以上続く老舗です。

古早味 台湾 カステラ

「古早」と言う言葉は台湾語で「昔」という意味で、「コー・ツァ」と発音されます。

つまり「古早味」というのは、シンプルな材料をつかって、昔ながらの作り方で作られた素朴な味、幼い頃を思い出すような懐かしい味を指す言葉です。こういった食べ物は値段もたいてい手頃です。しかし、作るのに手間がかかるため、効率やスピードや量産が重視される現代では人手も見つかりにくく、本当の昔の味に近い「古早味」に出会うのはなかなか難しくなってきています。

ここ数年、「古早味カステラ」( 台湾 カステラ )の屋台やお店がブームとなり、あちこちで見られるようになりました。

でも実は私が、邱恵美おばさん(以下「阿美さん」と呼びます。※「阿」は中国語で親しみを込めた「さん・ちゃん」の意味)の古早味カステラを初めて食べたのは10年以上も前のことでした。仕事で台南まで通勤していた時に、食通の同僚がこのお店を教えてくれたのです。

その当時、阿美おばさんは青年路にある「東菜市」という市場の屋台で、鳳梨酥(パイナップルケーキ)や魯麺(発音は「ロー・ミー」。 台南特有のトロトロスープ麺)と一緒に古早味カステラを売っていました。その時も既にかなり有名で、常連客が沢山いました。

今考えると、阿美おばさん古早味カステラが、最近のブームの先駆けとなった元祖と言っても過言ではありません。

あの頃私は何度も朝早くにこのお店に行ったことを、今でも覚えています。朝早い列車で2時間早く台南に向かい、まだ人も車の通りも少ない爽やかな朝の空気の中を、自転車に乗って阿美おばさんの屋台に行き、カステラを買っていました。彼女は自分の売る焼き菓子に情熱と自信を持っていて、そこから安心感や好感のようなものを感じました。

阿美おばさんは、外見は決して親しみやすいタイプではなく、仕事中は若干険しい顔をしているのですが、見ていてなぜだか距離感は感じません。彼女の人柄と彼女の作るお菓子がまるである種の魔力――人の心をつかんで離さない魔力を放っているかのようです。

それから2年後、台南での仕事が一段落して最後の出勤日の帰り道、私はいつものように自転車に乗って駅へ向かいました。台南での私の最後の停留所は、阿美おばさんのお店です。ここでカステラを買うことが私の心の中の儀式でした。「台南とはしばらくお別れだね。」

それ以降、台南に行く機会がある度に「阿美おばさんのお店に行ってカステラを買うこと」が私の定例行事になりました。

お店に行って阿美おばさんに会えないときは、なんだか心許無い気持ちにさえなります。

その後、阿美おばさんの屋台は東菜市から民権路に移転し、また水仙宮市場に2号店も開きました。

今年5月下旬、ちょうど端午節(旧暦5月5日)が近づいてきた頃、私は再び台南の阿美おばさんのお店を訪れました。彼女はちょうど肉粽を作っているところでした。 私は彼女に、いつもカステラを買いに来る度に心が嬉しさでいっぱいになることを伝えました。

また、彼女が仕事を心から愛しているんだなと私が感じている、ということも。この気持ちは、ここ数年来るたびにいつも変わらず感じていることでした。

私は好奇心から、阿美おばさんに「この仕事を始めたきっかけは?」と聞いてみました。

彼女は、てきぱきと粽を巻く葉を折ったり卵の黄身や肉などの具を入れたりしながら、滔々と「阿美の人生」を話してくれました。

邱恵美 肉粽

邱恵美 ~ 台南の阿美おばさん

阿美さんは16歳の時、故郷の屏東県長治郷を出て、仕事を求め台南にやってきました。

最初は、今の国道1号線の仁徳インターチェンジ付近に住んでいました。

当時、向いにあった「東和紡織」という会社で働いていた近所のおばさんが、会社で求人があると伝えてくれました。

家からも近いし、会社とも話がついているということで、おばさんは阿美さんに、この仕事に応募するように言いました。

しかしちょうど同じ日に、後甲地域付近の「台南紡織」という会社でも人を募集していました。面接は、台南紡織が午前で、東和紡織が午後でした。

「なぜだか分からないけど、私はその日に、東和紡織じゃなくて台南紡織の面接に行こうって決めちゃったんですよ。」

と阿美さん。 阿美さんのその行動はおばさんを激怒させてしまったそうです。

その後、彼女は台南紡織で働き、そこで最初のご主人と出会って結婚しました。当時の多くの働く女性がそうだったように、彼女も結婚を機に退職しました。その後子供を数人もうけました。

最初の結婚は離婚することになり、阿美さんは子供たちを抱え、家計を支えるために食べ物の屋台を始めました。メニューには豆花(トウファ)をはじめ色々な品目を揃えました。特に、昔から台南の人々が好んで食べていた魯麺は、あちこち食べ歩いて比較し、その中からオリジナルの味を考えました。

1993年に張燦鍙氏が台南市長だった期間に、女性の再就職を支援するため、労働局が無料の職業訓練塾を開設しました。これを知った阿美さんの友人に誘われて、阿美さんはパン・ケーキ作りコースに参加したのです。それがきっかけとなって、商売も技術も一段と幅が広がり、磨きがかかりました。この頃ちょうど、阿美さんの二人目の夫がギャンブルの借金を返すために父親の持ち家を売ろうかと迷っていたのですが、それを隣人が「絶対に売らない方がいい」と説得してくれたうえに、台湾ドル10万元を貸してくれたのです。そのおかげで阿美さんは、その家で安心してカステラ・鳳梨酥(パイナップルケーキ)・クッキーなどのお菓子作りをしたり、魯麺を売ったりできるようにしてなったのです。ここが阿美おばさんのお店の出発点になりました。

そうしてひたむきに頑張ってきた阿美さんの手作りカステラやお菓子には、彼女の堅実な性格がにじみ出ています。

余分な添加物を使用しない、派手なデコレーションもない、全く素朴な、実直なカステラです。

そのシンプルな味は、昔、私の子どもの頃のようにお菓子やおやつがそんなに沢山なかった時代に、母が卵の白身と黄身を分けて丁寧に泡だて、フライパンで作ってくれたケーキを思い出させてくれます。

邱恵美 / 阿美 古早味 カステラ

オーブンから出すと、卵本来の香りがただよいます。天板の上のカステラはふんわりと揺れていて、それでいてずっしり・しっかりとしていて、柔らかです。割ってみると「シュワ~」っという音と同時に、うっとりするような香りが溢れ、見ているだけで嬉しくなります。

シンプルで、しっとりしていて、とても繊細で食べやすいのです。

飲み込んだ後の後味はすっきりしていて、しばらく時間が経ってからも、甘い物を食べた後にたまに感じるあの胃酸が出るような不快感も起こりません。食べる人の為に細部まで工夫が凝らされているのだとわかります。

ファンは地元の人だけでなく、日本からやって来る長年のリピーター客も多数いて、毎年台湾に来て台南のお店に来てくれたり、日本の自宅に阿美さんを招いてくれたりするそうです。国を越えた長年の付き合いなんて、とても素敵な友情です。時季折々、阿美さんから日本へカラスミやマンゴーを送ったり、日本のお客さんから青森のりんごなどを送ってもらったりと、心のこもった交流が続いているそうです。

邱恵美 / 阿美 古早味 カステラ

「今年は新型コロナの影響で日本のお客さんが来られないから、近いうちにマンゴーを送るつもりなんですよ。」

阿美さんは肉粽を一本包んだ後、そう言って携帯を出して、YouTubeで見つけたという日本語学習チャンネルを見せてくれました。

誠実で、まじめで、正直で、前向きで、理性的――そんな性格が、阿美さんに多くの良い縁をもたらしたのでしょう。

「自分のそばにいつも助っ人がいて、助けが必要なときは必ず私を引っ張ってくれているような気がします。」

子供たちがまだ小さい頃、阿美さんの家が火事に見舞われたことがあるそうです。煙が広がる中でうろたえていた子供たちを、阿美さんは抱きかかえ、手を引いて、手探りで階下に下りました。すると、閉まっていたはずの鉄のシャッターが、なぜかその時は隙間が空いていて、一家全員が無事に脱出できたのです。顔に少しすすが付いただけで、みな無傷でした。

そんな命の危機を経験したこともあり、阿美さんは慈善活動の機会があれば、必ずできる限り貢献するようにしているそうです。

また自分自身を常に大切にし、天が与えてくれた機会や加護に感謝すると同時に、他人が助けを必要とするときは力になろうとしています。

もしかしたら、そういうことが影響していたのかもしれませんが、数年前に初めて彼女と出会った時からずっと私が彼女から感じていたのは、彼女の心からにじみ出るエネルギーです。それは、自分を大切にするとともに他人をいたわるという彼女の強さと優しさです。人を引き付けるエネルギーなのです。

私は引き続き気になって、東和紡織に行かず台南紡織を選んだ理由を聞いてみました。

「実は私もどうしてだかわからないんだけど、でもね、私が東和紡織に行っていたら、今私はここにいないはずだから、お客さんは私に会えなかったし、阿美おばさんのカステラも食べられなかったでしょ。」

話の途中、阿美さんは何度もこう言っていました。「これが人生。不思議だね。」

2015年2月、CNNがニュースで紹介した台南必須グルメ19選の中に、阿美さんの魯麺も入っていました。

テレビで紹介されたことを、彼女はとても光栄に感じたそうです。自分が歩んできた人生の中でどんな困難にも昂然と立ち向かい、前向きに頑張ってきた自分を誇らしく思う気持ちが、彼女の顔に浮かんでいました。

人生の運や分かれ道は往々にして、一瞬の選択によって決まるものです。

その選択の背景や自分でも説明できない理由は、もしかすると深く考えてもはっきりしないままなのかもしれません。その選択の意義は、常に後日になってから、人によって評価されたり語られたりするものなのでしょう。

でも、結局全ては「心の力」なのだと私は思います。

台南の阿美おばさんの「古早味」のカステラは、その工法や作る動作の一つ一つの細部に、彼女の心の力が込められているのです。

邱恵美 / 阿美

 

邱恵美 鳳梨酥(パイナップルケーキ)

住所:台南市中西区民権路一段88号

営業時間:07:00~19:00 

 

阿美 焼きたて 古早味 台湾 カステラ

住所:台南市中西区民権路三段50号(水仙宮市場)

営業時間:9:00~21:00

 

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