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【台湾人の物語】高雄塩埕区 Kyomo Pasta :簡珮娜さん

Kyomo Pasta

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台湾人 / 高雄 レストラン / 塩埕 イタリアン / kyomo pasta 】

(日本語翻訳=GA)

『一年の熱去り、気は水のごとくに澄み、天は鏡のごとくに磨みがかれ、光と陰といよいよ明らかにして、いよいよ映照せらるる時』――ワーズワース(William Wordsworth) 国木田独歩『武蔵野』より

高雄塩埕区の大義街と必忠街の十字路付近は、少し北側の崛江周辺で日本統治時代に港が造られ、船が埠頭に泊まるようになったことから「入船町」と呼ばれていましたが、その後 地元の人々の間では「砂地(台湾語:沙仔地)」という通称で呼ばれています。

この辻にある、まるで時間が止まったような古い三角窓の長屋で、2018年9月、改修工事が進められていました。そして日を追うごとに、新しいお店の姿がそこに現れてきました。

石壁は元の状態がそのまま残され、その上に鉄製の切り文字看板が打ち付けられています。アルファベットで書かれた店名は「Kyomo Pasta」。平日は車も人通りも少ないこの静かな通りで、その渋く輝くグレーの文字は、穏やかにひっそりと存在感を放っています。

この店はイタリアンパスタ料理を専門とするレストラン。店名の「Kyomo」の由来は、シェフが日本出身ということもあり、「今日も」という日本語の音からとっています。窓は様々な木枠が組み合わせられていて、カラフルながらも素朴な雰囲気を醸し出しています。席数が18席のKyomo Pastaはその年の12月18日にオープンしました。

翌年2月、ほぼ毎日のようにこの道を通る私は、何度かちらちらと店内の光景を見て、事前に様子を把握してから、娘と一緒にお店に入ってみることにしました。

ドアを開けてみると…。白いシャツを着たショートヘアのほっそりした若い女性が、ゆったりとした少し高めの声で迎えてくれました。とてもはつらつとした雰囲気です。

ほぼ満席の店内で、接客からドリンク・食器・料理の配膳、注文受け、レジまで、彼女が一人でこなしていて、てきぱきと軽やかに店内(実際はこじんまりとした空間)を行き来しています。奥の厨房のシェフとの連携も息がぴったり合っています。

「みて、彼女の仕事ぶりはゆとりがあるね。」と私が娘に言うと、

「ゆとりって?」と娘が私に聞きました。

「つまりね、彼女は、自分がここで何をすべきか、何ができるのか、どのようなクオリティをお客さんに示すべきかをよく分かっていて、そして、それができるように自分の状態をきちんと整えているの。だから、お客さんが多くて彼女は忙しいのに、私たちは、入って来てから席に着くまでの間に彼女の仕事や接客態度を見ていて居心地良く感じたでしょ?」

「うん。」

「彼女は仕事のリズムもしっかり把握しているから、見ている人に安心感を与えてくれる。これが“ゆとり”っていうこと。」

「人」と接する機会の多い仕事や場所というものは舞台演技の概念と非常に似ていると、私はよく思います。幕が開き仕事が始まると、その空間にいるスタッフはまるで各自の役割を演じる役者のようで、手足からあふれ出る熟練した動きが、プロ意識を感じさせます。

プロの役割を演じることに集中している人は内側から自ずと、ある種の光を放っています。それは「その仕事を心から愛する者の輝き」です。

その輝きは短期間でできた惰性的なものではなく、長期間の準備を経て積み重ねられたものです。

私が「仕事にゆとりがある」と形容した女性――簡珮娜さんは、台湾北部の基隆という港街の出身です。

基隆から嘉義に移ってしばらく暮らした後、高雄で学校を卒業し、留学代行センターでコンサルタントと貿易の仕事に数年間ついていましたが、公務員試験の準備期間中に、縁があって、台中にある「Copain Italian fine food義式廚房コパン」というレストランで働くことになりました。しばらく学業と仕事の両立を続けていましたが、後に正規スタッフとなり、その後2号店開店の協力支援も行なって6年近く勤めました。

Copainは日本・東京で20年の歴史があるイタリアンレストラン・コパンの台湾店です。 東京本店は小石川(地下鉄「茗荷谷」駅近く)にあり、ピザやパスタなどが楽しめる温かい雰囲気のレストランで、リーズナブルな価格で手軽に食事ができます。また民宿も併設されています。コパンは2014年に台湾に出店しました。現在台湾にあるCopainは台中の大勇街沿いの1店舗だけです。

コパン小石川 

台湾 Copain 義式廚房 

 

簡珮娜さんはCopainで働き始める前、仕事に対して漠然とした不安を抱いていました。苦労して働く父の姿を見て育ったため、自分は公務員試験をうけようと自分に言い聞かせ、試験準備をしていました。しかし、様々な人と接するうちに、自分の個性に気づき、仕事を通じて自己実現する道を考えるようになりました。飲食業界で働いてみると、実務で学ぶことが多く、言語習得の必要性にも迫られ、それが自然とモチベーションを育ててくれました。

職場には多種多様な人がいますが、仕事の種類に係わらず、自分自身に対してポジティブな姿勢を保って心を開き、信念を確立したい、自分の価値を作りたいという願いを持っていれば、数多くの選択肢の中から自分の居場所を確立していくことができるのです。

台湾Copainには日本のコパン本店から派遣されてきた日本人シェフ吉岡尚泰さんがいました。彼は台湾がとても好きで、自分の店を持ちたいと考えていました。そこでホール経験の豊富な同僚・簡珮娜さんを誘い、Kyomo Pastaを共同経営で開くことになりました。

詳しい経緯は聞いていませんが、吉岡シェフが簡珮娜さんの仕事ぶりを信頼していたのだと思います。

Copainを退職した後、開店準備は細々とした作業がたくさん必要でした。まずは、出店地の検討、市場の飽和度やビジネスチャンス・客層開拓の可能性の確認、経営モデル・賃貸料コストの検討…、そして開店直前にはメニュー作成、価格設定などなど。塩埕区では、他地方出身の簡珮娜さんと外国人の吉岡シェフに対して、地元の中高年の住民の方々が親切にアドバイスをしてくれるなど暖かい交流がありました。この地に来たばかりの二人には未経験の色々な不安がありましたが、開店後は、しっかりとしたプロのサービスと確かな味に加え、日々状況を見て微調整を行っていったことで、半年後には口コミが徐々に広がってリピータ客も増え、店は昨年年末に1周年を迎えました。お店の着実な歩みは、お二人の仕事に対するプロとしての姿勢の表れでもあり、お二人の心にある柔軟さや謙虚さがにじみ出ています。

新型コロナウイルスが流行し始めた今年初め、飲食業界が大打撃を受けている中、Kyomo Pastaは安定した経営を続けており、ホールスタッフも現在の3人に増やしました。

お店を訪れるといつも、店内に中高年層の常連客もいらっしゃることに気づきます(これは普通のイタリアンレストランではあまり見られない光景です。台湾の一般的なイタリアンレストランでは客層や味のターゲットを絞って設定しているので、客は若年層と休日ファミリー客がメインなのです)。簡珮娜さんと吉岡シェフのお二人が地域社会と繋がりを持ち、味やサービスが熟年層の客に深く受け入れられている状況を見ると、とても嬉しく感じました。

今回、簡珮娜さんにインタビューに訪れた際、彼女がパン作りの技術を学ぶために神戸に行く計画をしているということを伺いました。まだそれは少し先のことですが、会えなくなるのはとても残念です。でも、自分の成長を常に追求している彼女の純粋さに、心からエールを送りたいと思います。

基隆から台中へ、そして高雄へと移り住み、更に今度は神戸へと旅立つ彼女。広い海の風に暖かく迎えられて、彼女の心がきらきらと輝き、穏やかに光り続けることをお祈りしています。

ある時

<ある時>

朝靄の中で

ゆきあつたのは

しつとりぬれた野菜車さ

大きな脊なかの

めざめたばかりの

あかんぼさ

けふは、なんだか

いいことのありさうな氣がする

-「雲」山村暮鳥

 

Kyomo Pasta イタリアンパスタ専門店 

👉Facebook:: Kyomo Pasta

所在地:高雄市塩埕区大義街93号

 

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